【24】移送にまつわるスッタモンダ(3)移送会社、行政に問い合わせる
すでに週末、金曜日の夕方になっており、結論が出るのは週明けか、と思いましたが、意を決して移送会社を検索しました。
「地域名 統合失調症 移送」で検索したところ、西日本にそうした会社が複数あることがわかりました。
8年前の最初の入院のときには、関東圏に3つしかなかったことを考えると、この8年でずいぶん増えたということになります。
そのうちの一つに早速電話を入れました。
優しそうな年配の女性らしき方が電話に出て、相談に乗ってくれました。
やはり、転院といえど、移送に関して病院が何もしれくれないことはよくある、という話でした
こちらの状況を説明して、「車はわたしが運転する。母の両隣に座る介助員を二人だけ出していただく、というような柔軟な対応は可能か」と尋ねると、「大丈夫だ」という返事でした。
その日の夜に見積もりを送ってくれました。
介助員2名の人件費、交通費に加え、精神搬送弁護士費用なる項目があり、合計で8万円強でした。
以前、車付きであったとはいえ、4人で50万円とか3人で70万円、という高額であったことを考えると隔世の感があります。
見積もりをふまえて、日程について検討する、ということを伝えました。
どのみち対応は週明けになるわけだし、土日の2日間でゆっくり考えよう、と思いました。
8万円程度でコトが済むなら安いものだ、とは思いました。
しかし、そもそも転院は「長期入院には対応していない」という理由で、病院側からしてきた話です。
確かに、殴打事件時の対応で不信感を抱き、こちらから転院を打診したことはありますが、その後の対応や状況が改善し、その申し出を撤回した経緯があります。その話は一度終わっています。
病院側から転院をお願いしてきておいて、その費用をこちらが全面的に負担するのは、筋が違うのではないか、という思いがありました。
いろいろとネット検索をしてみましたが、転院時の移送に関する法律は定まっていません。
調べるにつれ、「精神福祉保険法 移送制度」という検索ワードがわかるようになり、いろいろと調べました。
入院時はともかく、転院時の移送をどうするのか、という点については、法律が未整備のようでした。
たとえば、精神福祉保険法 第三十四条の3には、都道府県知事の責任で医療保護入院にまつわる移送を行なうことが明記されていますが、「指定医の診断があるにも拘らず家族の同意が得られない場合」という条件がついています。
すなわち、入院の必要のある患者がいて近隣に迷惑をかけているが、対処する家族がいない、またはその家族が対処を拒否しているといったケースを想定した条文だということです。
非常に複雑怪奇な条文なので引用は控えますが、主語は「都道府県知事は」であり、述語は「移送することができる」です。
ここから、今回のような転院に関してではありませんが、なんらかの条件が揃えば、都道府県知事の命を受けた都道府県職員が移送を実行することもありうる、というひとつの可能性を見出すこともできます。
そこで、週明けの月曜の朝に、県庁に電話をしてみました。
代表の方に「家族が精神病患者なのだが、転院時の移送について問い合わせたい」というと、精神保健福祉係につないでくれました。
状況を説明すると、県として相談事案としては承り検討はするが、管轄は市になるのでそちらにも聞いてくれ、という返答でした。
そこで、市の課名と担当者の名前と電話番号を教えてもらって、そちらにかけました。
状況を説明して、法律等を確認しましたが、やはり「転院に関する移送」について、法律で明確に手順や方法を定めたものはない、ということでした。
基本的には病院間の調整に任せており、書類上は退院してから入院、ということであっても、転院は転院なのだから、移送に関しては基本的に病院が努力するものだ、という回答でした。
「現状、ほとんど膠着状態なので市なり県なりからひとこと病院に指導を入れてはもらえないのか」と言ってみましたが、担当者は「うーん…」という感じ。
やはり強制入院とか強制移送とかいうことは人権問題が絡むので、公務員に法律外の対応ができるものでもなく、法律がないのになんとかしろ、というわけにもいきません。
結局移送会社に頼むしかないのかな、と思って、いろいろ相談に乗っていただいたことに礼を言い、電話を切りました。
しばらくするとさきほどの県の担当者から電話が入って、「いろいろ検討はしたのですが、上司にも迂闊なことを言うな、と言われておりまして…基本的に都道府県職員を出して対応する、といったことは難しいです」と申し訳なさそうに言われました。
まあそうだろうなぁ、と思い、わざわざ連絡をくれたことに対して礼を言って、電話を切りました。
一連の問い合わせを通じて、移送に関してのみならず、精神科医療に関する法律はまだまだ未整備で、常に議論があり、法改正が頻繁に行われるということがよくわかりました。
精神保健福祉法についての最近の改正では、特に入院治療から地域で面倒を見るという体制に切り替わりつつあるようです。
たとえば、
第三十三条の六 精神科病院の管理者は、前二条に規定する措置のほか、厚生労働省令で定めるところにより、必要に応じて地域援助事業者と連携を図りながら、医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するために必要な体制の整備その他の当該精神科病院における医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するための措置を講じなければならない。
という項目追加の改正が、平成26年施行分としてなされています。
入院中、再三わたしが、病院側に、「退院後、地域で面倒を見るような体制や仕組みはないのか?」という質問をしたのにもかかわらず、病院側は「ない」と言い続けてきました。
退院後の生活をどのように送っていくものなのか、という事例の紹介や助言は皆無でした。
その体制や施策を整備するのは、入院している病院の義務なのです。「なにもない」などという返答は、最近施行された法律によって許されるものではないのだ、ということをこのとき知りました。
今後、退院を促されたとしても、退院後の体制整備を病院側に求める権利が家族の側にあるということです。